アスリートに知ってほしい、アンチ・ドーピング認証と分析の違い

アスリートに知ってほしい、アンチ・ドーピング認証と分析の違い
アスリートに知ってほしい、アンチ・ドーピング認証と分析の違い

アンチ・ドーピングを目的とする認証制度や、分析といった対策が取られたサプリメントや化粧品がここ数年で増え、アスリートにとって安全な選択肢が年々増えてきています。今回はアスリートの皆さんの身を守るために、アンチ・ドーピング認証(第三者認証)と分析サービスとの違いを解説します。
※今回解説するアンチドーピング認証は第三者による認証制度(第三者認証)を指しています。

認証も分析もされていない製品の使用は危険

アンチ・ドーピング認証(第三者認証)と分析サービスというのは、サプリメントや飲料、化粧品などを分析したり、工場を査察したりして、製品に対するドーピングに対する安全性を確かめるものです。詳細については後ほど解説しますが、まずは認証や分析を受けていないサプリメントなどの危険性について解説します。

未分析品を推奨され、使用したら違反に

2019年11月、日本の競泳選手が、国内製品が原因で4ヵ月間のドーピング違反になったことは記憶に新しいかと思います。違反となった選手は日ごろからドーピングについて細心の注意を払っており、原因となった製品を使用する前にも、メーカー側にドーピング禁止物質が使用されていないことを確認していました。
しかし、実際メーカーではドーピング禁止物質の原材料は使用していなかったものの、認証や分析といった対策は取っておらず、製品の安全性の確認をしていなかったのです。

チーム推奨品も危険性がある

2016年にはサンフレッチェ広島に所属していていた選手が、チームで推奨された製品を使用した結果、ドーピング違反となっています。この一件では、製品が分析された事実を確認せず、「ドーピング規定に違反する成分は一切使用していません」というパッケージへの表記と、メーカー側の主張を信じたために採用してしまい、違反となりました。
チームのトレーナーや家族など信頼関係のある人からサプリメントや化粧品などの使用を推奨されても、安全性の確認が取れない限りは使用を控えましょう。

なぜサプリメントにドーピング禁止物質が混入するのか

サプリメントにドーピング禁止物質が混入する理由は主に以下3点が考えられます。

  1. サプリメントに使用される原材料に使用
  2. サプリメントを作る工場で他の製品の成分が混ざってしまう
  3. 第三者の意図的混入

製品パッケージに記載のない成分が混入する理由は、2018年に起きたカヌーの選手が、ライバルの選手にドーピング禁止物質を混入させた例のように、「3:第三者の意図的混入」がすぐに思いつくかもしれません。しかし、主な原因は「2:サプリメントを作る工場で他の製品の成分が混ざってしまう」こととされています。
そのため、メーカーが原材料にドーピング禁止物質を使用していないと主張しても、ドーピング違反になる可能性があるのです。

サプリメントに対するアンチ・ドーピング機構の姿勢

上記の事例のように、サプリメントには意図しない成分が混入することがあり、パッケージに記載がなくとも違反になる可能性があります。そこでWADA(世界アンチ・ドーピング機構)やWADAの国ごとのアンチ・ドーピング機構(JADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)など)では、サプリメントに関する危険性や安全に使用するためのガイドラインを公開しています。

WADAはサプリメントの使用を推奨しない

ドーピングのルールを規定しているWADAは、サプリメントの製造や製品パッケージへの記載に関する規制が世界的に厳しくないことから、サプリメントの使用は一定の危険性があるとし、サプリメントの使用は推奨していません。

1. ARE SUPPLEMENTS SAFE TO TAKE?
Extreme caution is recommended regarding supplement use.
The use of dietary supplements by athletes is a serious concern because in many countries the manufacturing and labeling of supplements do not follow strict rules, which may lead to a supplement containing an undeclared substance that is prohibited under anti-doping regulations.

参照:PROHIBITED LIST Q&A 「DIETARY AND NUTRITIONAL SUPPLEMENTS」(WADA)

またこのような背景から、WADAは違反事例の調査の目的以外で、サプリメントなどの製品の安全性を確かめる分析は行っていません。

安全性の基準は各国のアンチ・ドーピング機構が公開

WADAはドーピング違反の危険性があることから、サプリメントの使用を推奨していませんが、今ではアスリートのコンディション調整にサプリメントなどは欠かせないものとなってきています。
そこでアメリカや日本では、各国のアンチ・ドーピング機構が、アスリートが少しでも安全に製品を使用できるようなガイドラインを公開しています。
アメリカではUSADA(米国アンチ・ドーピング機構)が主体となり、分析、認証機関向けに基準を公開。USADAはこの基準に沿った第三者認証がサプリメントによるドーピング違反のリスクが低減されるとして、アスリートに推奨しています。
また、日本でもアスリートとメーカー、分析機関向けにJADAのHPで「スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン」が公開されています。そして日本を拠点とする分析機関はこのガイドラインに沿ってサービスを提供しているのです。 この様にすべての国ではないようですが、各国で基準が公開されており、拠点とする国のガイドラインに沿って分析、認証サービスは提供されているのです。

アンチ・ドーピング認証と分析の違いと種類

認証と分析の違い

アンチ・ドーピング認証はそのほとんどが、サプリメントメーカーや分析機関とは異なる第三者によって企画・運営されています。第三者が運営することにより、信頼性や透明性の高いサービスとなっています。
USADAやJADAで公開されている基準やガイドラインの内容は、それぞれ異なりますが、主に書かれていることは以下です。各認証サービスや分析サービスはガイドラインを元に企画・運営しています。

  1. 製品を分析し安全性を確かめること
  2. ドーピング禁止物質が混入しない仕組みをとる工場で製品を作ること
  3. 分析した結果と工場に関する情報を公開すること

認証サービスと分析サービスの主な違いは ”製品の分析以外も実施するか否か” です。
アンチ・ドーピング認証の場合、製品が賞味期限ごとなどに分析され、また工場の査察も認証を提供する機関が行っています。そのため、アンチ・ドーピング認証のマークのある製品は、「定期的に分析がされ、安全な工場で作られていることが証明されている」という証になります。ただし、認証によってはすべての賞味期限を分析しているわけではないようなので、分析されたLOTであるか確認が必要です。

一方、分析サービスでは、特定の賞味期限の製品しか分析がされていません。また、工場の査察を分析機関の担当者が行うことはないです。そのためアスリートは、メーカーのHPなどで分析結果や工場に関する情報を確認する手間がかかります。
ただし分析のみの製品は、危険性があるという訳ではありません。過去の日本の違反事例を見ていくと、分析を一回もしたことのない製品が原因で違反になったことはありませんが、分析を一度でもかけた製品が原因で違反になった事例はありません。この様な背景からか、JADAの公開するガイドラインでもメーカーに対し、すべての賞味期限の製品を確認するわけではなく「最低年1回以上の分析を行うこと」と指定しています。

また、サプリメントを製造する工場では基本的にドーピング禁止物質以外の虫やほこり、その他異物の混入がないよう、一定の品質をクリアした工場で基本的に製品を作るようにしています。そのため、分析のみの製品を作る工場は何も対策をしていないという訳ではないのです。

認証と分析の種類

認証、分析サービスは世界的にいくつか存在しますが、今回は日本のメーカーの製品、もしくは日本で手軽に購入できる海外製品を取り扱うメーカーが取る認証と分析サービスをいくつか紹介します。

<認証>
NSF Certified for Sport (NSF社:アメリカ)
BSCG CERTIFIED DRUG FREE (BSCG社:アメリカ)
Informed-Choice / Informed-Sport (LGC社:イギリス)
<分析>
合同会社イルホープ (日本)
公益財団法人日本分析センター (日本)
Cologne List (ドイツ)

アスリートは何を安全と判断したらよいか

アスリートはサプリメントや飲料、化粧品などの製品の安全性について、どのように判断したらよいのでしょうか。
一番良いのは「自国で公開されるガイドラインに準じた対策を取った製品であるかどうか」だと考えられます。

認証や分析は分析回数などの違いだけではなく、公開されるガイドラインや法律が異なることから「分析対象」が異なります。そのため、日本で流通しやすい成分などが分析されていない可能性があるのです。
この様な背景から、WADAも認証や分析のある製品はリスク低減にはなるものの、100%ドーピングフリーを避けられるものではない、としています。

また、安全性のガイドラインが出てはいますが、WADAがサプリメントの使用を推奨していないことから、サプリメントで違反になり、いかに注意をしていたことを主張しても、ドーピング違反になる可能性があります。そのため、サプリメントの使用は最終的にアスリートの責任となる可能性が高いのです。

アスリートはサプリメントや飲料、化粧品などを使用する前に、自国のガイドラインにいかに準じた対策を取っているかを分析結果などの客観的データをもとに判断して、使用することをお勧めします。