糖質コルチコイドの治療はいつやめるべき?~ウォッシュアウト期間〜

糖質コルチコイドの治療はいつやめるべき?~ウォッシュアウト期間〜

WADA(世界アンチ・ドーピング機構)は1年前から勧告してきた通り、2022年からの糖質コルチコイドの注射に関するルールを大きく変更しました。糖質コルチコイドの注射は大会前、いつ中止したら良いのかというのは、アスリートだけではなく、医師、薬剤師、看護師、トレーナーも必見の内容です。このコラムでは糖質コルチコイドのウォッシュアウト期間について解説していきます。

なお、2022年の禁止表国際基準(=ドーピング禁止リスト)の変更点については、以下をご確認ください。

一目でわかる!2022年禁止表国際基準の14の変更点!

2022年から糖質コルチコイドの注射が大会期間中、原則禁止に

糖質コルチコイドは2021年まで、禁止される方法が限定的でしたが、2022年からは以下のように幅広く禁止されることになります。

<変更前(2021年まで)>
大会期間中、経口 / 静脈内注射 / 筋肉注射 / 経直腸での使用は禁止

2021年禁止表国際基準(英語版)

<変更後(2022年から)>
大会期間中、糖質コルチコイドの注射使用*、

経口使用(口腔粘膜(口腔内(頬)、歯肉内、舌下等)を含む)、

経直腸使用はすべて禁止される。


*静脈内、筋肉内、関節周囲、関節内、腱周囲、腱内、硬膜外、髄腔内、嚢内、病巣内(例えば、ケロイド内)、皮内、および皮下

2022年禁止表国際基準(英語版)

2021年までは大会期間中、糖質コルチコイドの静脈注射(=点滴を代表とするような注射)と筋肉注射(=新型コロナウイルスのワクチンを代表とするような注射)がドーピング違反になる注射方法として禁止されてきましたが、2022年からは『大会期間中』の、関節内注射など糖質コルチコイドの注射も全て禁止となります。新たに禁止とする背景には、関節内注射など局所で使用する注射に関する、パフォーマンス能力の向上や健康を害するデータが集まったことが挙げられるようです


糖質コルチコイドはどういった時に注射される?

糖質コルチコイドには炎症を抑える効果などがあり、医療の現場ではアトピー性皮膚炎などの皮膚の炎症を抑える時に、主に塗り薬として頻繁に使用されます。糖質コルチコイドを注射するケースは、半月板損傷や椎間板ヘルニアといった大きな痛みを改善する時などに使用されます。つまり、ラグビーや柔道など接触の多いスポーツをするアスリートは大会期間中に怪我を負った際、試合と試合の間に臨時的な治療の一環で注射される可能性もあるため十分に注意する必要があるのです。

大会期間って「いつから」?

糖質コルチコイドは、常に使用が禁止されるドーピング禁止物質ではなく、大会期間中の使用のみが禁止される成分群です。では、いつから大会期間と定めているのでしょうか。WADAは2022年の禁止表国際基準の公開と共に、「糖質コルチコイド」についてのみ、大会の何日前から中止したら良いのか(=ウォッシュアウト期間)を、以下として公開しています。

糖質コルチコイドのウォッシュアウト期間一覧

*ウォッシュアウト期間:最後に使用した時から大会期間の開始時までの時間
**経口:経口に加え、「口腔粘膜、口腔内、歯肉、舌下での使用」も含む

参照:2022禁止表国際基準 主要な変更の要約と注釈(英語版)(WADA)

WADAは大会の開始を当日の0時からと規定。ゆえに、例えば1月1日に大会が始まり、半月板損傷の治療の一貫としてプレドニゾロンを大会期間中も関節内注射(局所注射)したい場合、ウォッシュアウト期間が10日間のため、少なくとも12月22日の0時から大会の前日の31日までは注射を控える必要があるのです。

糖質コルチコイドの注射に関する注意事項

糖質コルチコイドはウォッシュアウト期間が設定されるなどルールが細かいため、WADAは他にも様々な注意喚起を同時にしています。アスリートだけではなく、医師、薬剤師、看護師、トレーナーは次のことも理解しておくとよいでしょう。

<WADAからのその他注意喚起>

1:大会期間中の糖質コルチコイドの注射などでの使用には、TUE申請が必要です。ドーピングのリスクを減らすために、医師と相談し、なるべく糖質コルチコイドではない医薬品を使用するとよいでしょう。

2:やむを得ず大会期間中などに使用した場合は、遡及的TUE申請が必要です。使用する前にTUE申請の条件を満たすかも確認したうえで、なぜ禁止される方法で糖質コルチコイドを使用することになったのかも記録しておくとよいでしょう。

3:糖質コルチコイドは次の使用方法では、ドーピング違反になるリスクが低いです。
A:吸入
B:局所(歯科-管内、皮膚、鼻腔内、眼科、肛門周囲)での使用

WADAが注意喚起する内容以外に、ステロイドと言われるグループには筋肉増強作用を現す、いわゆるアナボリックステロイド以外に、説明してきた糖質コルチコイドも含まれることにも注意が必要です。ウォッシュアウト期間については、ステロイドでも「糖質コルチコイドのみ」公開されており、アナボリックステロイドについては公開されていません。アナボリックステロイドと混同しないように、くれぐれもご注意ください。

また、口内炎の治療で糖質コルチコイドの塗り薬を使用するケースは多いです。この方法は歯科ではなく「口腔粘膜、口腔内、歯肉、舌下での使用」に該当するため、ドーピング違反になるリスクがあります。併せて注意を払いましょう。糖質コルチコイドをはじめ、ドーピングのルールは年々複雑になってきています。うっかりドーピングを防ぐために、アスリートは少しでも不安に思ったらすぐに医師や薬剤師に相談しましょう。

引用:糖質コルチコイドの口腔内局所使用についての注意喚起(JADA)