アンチ・ドーピングにとってのISO17025とは

アンチ・ドーピングにとってのISO17025とは
アンチ・ドーピングにとってのISO17025とは

2019年4月3日に公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA)より発表された「スポーツにおけるサプリメントの枠組みに関するガイドライン(以下、スポーツサプリメントのガイドライン)の3.6製品分析機関の第三者認証の取得について」では、サプリメントや化粧品などの製品に対する分析機関(以下、製品の試験所)の妥当性の要件としてISO17025の取得が望ましいとされています。では、アンチ・ドーピングにおける、IS01725とは具体的にどういったことを意味するのでしょうか。

ISO17025は試験所における国際規格

身近なモノやコトにも?ISOとは

ISO17025について解説する前に、まずISOについて説明します。ISOとは、様々な物に関する国際規格のことです。例えばクレジットカードのサイズや非常口のサインはISO規格で決められているため全世界共通のものになっています。車の場合、車体には様々なサイズのネジが使われますが、頭のサイズや軸の太さ、ネジの切られ方、それもそれぞれが世界統一されているため、世界のどこでも修理することができます。 そして、ISO規格はクレジットカードやネジといった物理的デザインだけではなく、品質管理やサービスなどの形のないものに対しても存在します。

試験所におけるISO17025の取得状況

ISOの中でも試験所、校正機関に関する国際規格がISO17025です。ISO17025では製品検査や分析・測定などを行う試験所及び計測機器の校正業務を行う校正機関に対する要求事項が定められています。
食品衛生試験や化学試験、物理試験などを実施する試験所において、その精度を証明する一つの基準として機能しているため、一定の信頼性があることから、その試験所での試験結果は国際的なデータとして通用します。

ゆえにLSIメディエンスに代表される、アスリートの尿や検体を分析し、ドーピングの陽性判定を行う様な試験所(以下、ドーピング判定の試験所)では、ドーピング検査に関連するすべての項目のISO17025の取得、維持が求められます。
LSIメディエンスのISO17025取得概要
LSIメディエンスのISO17025取得項目内訳(NATA)

また先述した通り、製品の試験所についてもISO17025の取得が望まれています。2021年8月現在、アンチ・ドーピングを目的とした第三者認証「Informed Choice/Sports」を提供するLGC社(イギリスの製品の試験所)も、サプリメント分野におけるドーピング検査用のISO17025を取得。
しかしLGC社は、求められる11のセクションのうち、7つのセクションにおいては取得できていますが、残りの4つのセクションはISO17025を取得していない状態です。全てのセクションでISO17025を取得していない理由には、以下のデメリットが起因しているのではないかと推察できます。

参照:英国認証機関認定審議会(UKAS)『LGC社のISO17025取得状況』

(以下概要)
分析対象物:人向けのサプリメント(粉、錠剤、ジェル、飲み物/液体、栄養バー、ハーブ)
分析種類:蛋白同化ステロイド、興奮薬、ベータ2作用薬、麻薬、ベータ遮断薬、利尿薬および隠蔽薬
分析方法:ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー

試験所がISO17025を取得するメリットとデメリット

試験所としてISO規格を取るということはメリットだけではなくデメリットも発生します。
ISO規格で試験を行うということは、それぞれの項目で国際的に標準的な一定のフローで分析を行うことが求められます。つまり血液や尿など「誰から採取しても大きく成分の構成が変わらない物」に対しては、一定のフローでの分析が容易なため「ドーピング判定の試験所」には適していると言えます。

しかし、サプリメントや化粧品など、血液や尿と異なる「様々な原材料から構成される複雑な物」は、検査の前処理などが難航するケースがあり、一定のフローで分析ができないケースが発生します。ゆえに「製品の試験所」には、ISO17025が必ずしも適しているとは言えないのです。

この様な背景から、LGC社もすべてのセクションでISO17025を取得しておらず、そしてスポーツサプリメントのガイドラインでも、製品の試験所でのISO17025の取得については「望ましい」という表現となっているのではないでしょうか。

イルホープの試験所について

イルホープではデメリットの観点から、ISO17025については検討事項として対応をしていますが、「3.4 製品分析にあたる分析機関に求められる能力要件」で求める通り、試験所では液体の製品であれば100ng/1ml(=0.1ppm)、固形の製品であれば100ng/1g(=0.1ppm)の分析精度を保持しています。ゆえに万一、分析結果について訴訟などの問題になった場合でもしっかりとした対応ができる、高精度な試験が可能な試験所で分析を行っています。

なお、サプリメントなどの製品に対するアンチ・ドーピングを目的とした分析では、LC/MS/MS検査が行われることが一般的です。しかし、LC/MS/MS検査は、特にサプリメントなどの様々な成分から構成されるものの影響を受けやすく精度が悪くなることが一般的に知られています。
そこでイルホープでは万一に備えた高精度な結果を出すために、LC/MS/MS検査に加え、検査対象薬物を製品に規定量加えた後、通常検査と同様な抽出条件で成分抽出されている事を確認する「添加確認試験」を、すべての製品で実施しております。
分析方法について

アンチ・ドーピングにおける各種サービスにおいて重要なポイントは、万一、訴訟などの問題になったときに、きちんとした試験結果を提出することができるかという点に尽きると考えています。ISO17025については必須事項ではないにしろ、サプリメントの分析をする上で重要な基準です。しかし、精度を追求すると、ISO規格では分析しきれないものが存在してしまうため、この項目については非常に取扱の難しいポイントの一つではないかと考えています。