ドーピング禁止物質の有無だけでは防げない理由を解説

「サプリメントなら食品だから大丈夫」「医薬品ほど厳しく見なくてもいい」「一度問題なく使えたから、今回も大丈夫だろう」

サプリメントは身近な存在ですが、実際にはサプリメントが原因でドーピング違反につながるケースもあります。JADAは、サプリメントのパッケージに表示されていないドーピング禁止物質が含まれる可能性があることや、使用前に情報を確認し、慎重に判断する必要があることを注意喚起しています。

ドーピングというと、ドーピング禁止物質を意図的に使う悪質なケースを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、現場で繰り返し問題になるのは、「避けようとしていたのに防げなかった」ケースです。

世界アンチ・ドーピング規程(World Anti-Doping Code;Code)では、アスリートにはクリーンスポーツに参加する権利がある一方で、体内に摂り入れるものすべてに責任を持つことが求められています。

つまり問題はドーピング違反は、ドーピング禁止物質そのものだけが原因ではありません。情報不足や確認不足、製品選択の難しさによって、意図しない摂取や規則違反につながることも少なくありません。 この記事では、サプリメントによるドーピングがなぜ起きるのか、具体例と防ぎ方を整理します。

サプリメントによるドーピングは「怪しい製品だけ」の問題ではない

まず押さえたいのは、アンチ・ドーピングの基本です。アスリートは、体に取り入れるすべてのものに責任を持つ必要があります。そのため、「知らなかった」「もらったから使った」「以前問題なかった」という理由では防ぎきれません。また、アンチ・ドーピングは倫理の問題だけではなく、健康を守るための取り組みでもあります。サプリメント1つの選択で、競技人生に影響が出る可能性もあります。サプリメントは医薬品より身近で、購入のハードルも低く、周囲から勧められやすい。だからこそ、確認不足による事故が起きやすいのです。

少しのミスが選手生命を脅かす事態になります。最終責任はアスリート本人!

 

サプリメントでドーピング違反になった具体例

実際に、成分表示にドーピング禁止物質が記載されていなかったにもかかわらず、サプリメントが原因となってアンチ・ドーピング規則違反につながった事例があります。2016年、日本スポーツ仲裁機構で扱われた事例では、競技者のドーピング検査でドーピング禁止物質が検出されました。調査の結果、継続して使用していたサプリメントから、表示されていないドーピング禁止物質が検出され、汚染製品と判断されました。 一方で、競技者は、成分表示の確認、インターネット検索、メーカー情報の確認、過去の使用経験など、一定の確認行動を行っていたことが認定されています。その結果、「意図的な使用ではない」と判断され、資格停止期間は短縮されました。この事例は、「怪しい製品だけを避ければよい」という単純な問題ではないことを示しています。表示確認は重要ですが、それだけでは十分とは限らず、複数の情報からリスクを評価する視点が求められます。

医薬品でもドーピング違反に【ツロブテロールが検出】

サプリメントだけでなく、医薬品によるドーピング違反もあります。

幼少期から喘息治療歴のある競技者が、競技大会前に実家にあったテープ式外用薬を使用し、ツロブテロールが検出されて規則違反となった事例があります。この事例の問題点として、残薬の利用、数年前に処方された薬の持参、ホワイトリストの理解不足、他人任せの確認などが挙げられます。

※ホワイトリスト(使用可能薬リスト):日本スポーツ協会(JSPO)が公表している「通常の使い方であれば禁止物質を含まず、安心して使用できる市販薬などの一覧」。ただし体調や使い方によっては例外もあるため、最終的には医師・薬剤師への確認が推奨されます。

プレドニゾロン、ナンドロロン、トリメタジジンなどの違反事例

JADA管轄の違反事例として、以下のような成分が挙げられます。

プレドニゾロン:炎症やアレルギーを抑える、いわゆるステロイド薬。長期使用によりホルモン代謝異常リスクあり

ナンドロロン:筋肉量増加を目的とするタンパク同化薬。ホルモン異常や心血管リスクあり

トリメタジジン:心筋の酸素利用効率を高める代謝改善薬。めまいやふらつきのリスクあり

このように、禁止物質は日常の医療の中でも使われることがあります。

 

喘息治療薬でも「吸えば大丈夫」とは限らない

β2(ベータ2)作用薬のうち、サルブタモール、ホルモテロール、サルメテロール、ビランテロールは一定条件下で吸入使用が認められる一方、その他のβ2作用薬(例:プロカテロール、ツロブテロール等)は吸入でも禁止とされています。

つまり、「喘息の薬だから大丈夫」ではなく、使う前に確認すれば防げる領域が多いということです。迷った段階でスポーツファーマシストに相談することが重要です。

サプリメントが医薬品よりドーピングリスク管理を難しくする理由

食品だから安全」と思い込みやすい

サプリメントは食品として扱われるため、安心してしまいがちです。しかし、競技者にとっては「体に入れるもの」である以上、リスク管理の対象になります。

表示だけでは判断しきれないことがある

サプリメントメーカーは通常、製品の品質や表示管理を行っています。一方で、その管理目的は必ずしもアンチ・ドーピングを前提としたものではありません。そのため、競技者にとっては成分表示の確認に加えて、アンチ・ドーピングの観点で評価された情報(第三者認証、分析結果、製造管理情報など)があると、リスク評価の精度を高める判断材料になります。

禁止表国際基準は毎年更新される

禁止表国際基準は毎年改訂され、9月末~10月上旬に公示、翌年1月1日に発効されます。そのため、「去年大丈夫だった」は今年の安全を保証しません。

また、禁止表国際基準では個別の成分名だけでなく、類似した化学構造や作用を持つ成分まで対象となっています。そのため、禁止物質をすべて網羅すること自体が不可能なわけです。ドーピング違反にならないためには最新情報を確認しながら判断する習慣が重要になります。

サプリメントのリスクを高める「コンタミネーション」という問題

サプリメントによるドーピングリスクを考えるうえで、避けて通れないのがコンタミネーション(混入)です。コンタミネーションとは、製造や流通の過程で、本来含まれていない成分が意図せず混入してしまうことを指します。

これは特定の工程だけで起こるものではなく、原材料の製造段階、製造ライン、輸送、保管など、さまざまなタイミングで発生する可能性があります。そのため、成分表示や書類確認だけでは、リスクを完全に排除することはできません。

実際に、医薬品であってもコンタミネーションが問題となった事例があります。2019年には、胃腸薬「エカベトNa顆粒66.7%『サワイ』」から、成分表示にないアセタゾラミドの微量混入が確認されました。調査の結果、原薬製造段階で、生産設備を共有していた別成分が残留し、最終製剤までキャリーオーバーしたことが原因と報告されています。

この事例は、「厳格に管理されている医薬品であっても、混入リスクを完全に排除することは難しい」という現実を示しています。一方で、沢井製薬は安全性には問題ないと説明しており、競技者にとっては健康リスクだけでなく、ドーピング上のリスクという別の視点も必要になることを示した事例といえます。

さらに、海外の研究では、市販サプリメントを調査した結果、一部製品から表示されていないアナボリックステロイドが検出されたことが報告されています(Geyerら、2004)。こうした成分は意図的に選んでいなくても摂取につながる可能性があります。

また、WADA(世界アンチ・ドーピング機構)もサプリメントについて、表示に記載されていないドーピング禁止物質が含まれる可能性を公式に注意喚起しています。つまり、サプリメントのリスクは「危険な製品を選ぶかどうか」ではなく、適切に選んだつもりでも混入が起こり得るという点にあります。

だからこそ重要なのが、「実際に分析して確認する」という考え方です。書類確認だけでなく、製品そのものを検証する工程が必要になります。そして、その確認は一度きりでは不十分です。コンタミネーションはロットごとに発生する可能性があるため、継続的な分析が求められます。

 

サプリメントによるうっかりドーピングを防ぐ5つのポイント

・本当に必要なサプリメントかを先に考える

・購入前に成分名まで確認し、分析されているかなども確認する

・一度使った製品でも再確認する

・残薬、もらい物、実家保管品を使わない

・競技者本人だけで判断せず、必要に応じて主治医、薬剤師、スポーツファーマシストなど、それぞれの立場から情報を整理することも有効です。複数の視点を取り入れることで、より適切なリスク評価につながります。

スポーツ医療支援は多職種連携で行う形が示されています。

 

サプリメントや医薬品を使う前に確認したい流れ

Step1:使う必要があるか整理する

Step2:商品情報(商品名・成分名・ロット情報等を記録する

Step3:自己判断で使用しない

Step4:WADAの禁止表やGlobal DRODINX等を活用し、成分や使用条件に問題がないか確認する

Step5:必要に応じてスポーツファーマシスト等の専門家へ相談する(スポーツファーマシスト検索はこちら

Step6 使用記録を残す

まとめ:サプリメント対策は「商品選び」ではなく「確認の習慣づくり」

サプリメントは、競技生活や健康管理を支える便利な選択肢の一つです。一方で、アンチ・ドーピングの観点では、成分表示の確認だけでリスクを十分に評価できるとは限りません。だからこそ、「成分や使用条件を確認する」「製造管理や分析情報など複数の情報を参考にする」「判断に迷う場合は専門家へ相談する」という習慣が重要になります。リスクをゼロにすることは難しくても、確認を積み重ねることで、より納得感のある選択やリスク評価の精度向上につなげることができます。

【出典】

・世界アンチ・ドーピング機構(WADA)https://www.wada-ama.org/

・日本アンチ・ドーピング機構(JADA) https://www.playtruejapan.org/

・Geyer H, Parr MK, Koehler K, Mareck U, Schänzer W, Thevis M.
Analysis of non-hormonal nutritional supplements for anabolic-androgenic steroids – results of an international study.
International Journal of Sports Medicine. 2004;25(2):124–129.

・沢井製薬株式会社「【第3報】エカベトNa顆粒66.7%『サワイ』に関する調査結果のご報告」(2019年4月19日)

【参考】

・アンチ・ドーピングとサプリメント_JADA

https://www.playtruejapan.org/code/rule/supplement.html

・公益財団法人日本スポーツ仲裁機構仲裁判断 JSAA-DP-2016-001

https://www.jsaa.jp/

記事の執筆

薬剤師/JADA公認スポーツファーマシスト 猪股 杏菜(いのまた あんな)

【プロフィール】薬剤師/JADA公認スポーツファーマシスト。医療・教育領域を中心に、研修、調剤業務、DI(医薬品情報提供)に従事。現在は薬剤師としての現場経験を活かしながら、サプリメント、アンチ・ドーピング、医薬品の適正使用に関する記事執筆や情報発信を行っている。専門知識をわかりやすく整理し、医薬品やサプリメントを利用する方が納得して選択できる情報提供を心がけている。