サプリメントのドーピング分析頻度は”一回きり”では絶対ダメ!
皆さんは、サプリメントや化粧品に混入する可能性があるドーピング禁止物質の分析をする場合、どれくらいの頻度で分析を行っていますか?このところ、一回だけ分析すれば安全であると誤解をしているメーカーさんが散見されます。今回は、安全性を高めるためのサプリメントや化粧品のドーピング分析の頻度について説明していきます。
最低年1回。しかしそれではコンタミは防げない
日本におけるサプリメントや化粧品のドーピング物質の分析回数については、「サプリメント認証枠組み検証有識者会議(日本アンチ・ドーピング機構(JADA)により設置)」で発行された「スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン」に以下のように記載されています。
3.3 製品分析の実施頻度 製品分析の実施頻度は、年間に 1 回以上の頻度で実施するものとする。
《解説》
○本ガイドラインでは、生産施設審査(「第 2 章 生産施設審査について」を参照)が実施されていることを前提として、製品の定期的な分析を実施する。
出典:スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン(日本アンチ・ドーピング機構(JADA)
これだけを見ると、年1回だけドーピング分析をすれば良いと思うかもしれませんが、安全性の観点から考えるとそれでは危険だと言えます。
その理由の一つは”コンタミネーション”。コンタミネーションとは食品等の製造過程における異物混入のことを指します。ドーピング違反の原因は様々ですがそのうちの一つがこのコンタミネーションで、コンタミネーションによるドーピング違反の場合は、”うっかりドーピング”とも言われています。
コンタミネーションはいつどのタイミングで起こるのかわかりません。工場で製造している時に起こることもあれば、発送の段階で混入する場合もあります。一つのLOTでコンタミネーションがされていなかったとしても、他のLOTで起きる可能性もあるため、LOT毎に分析してドーピング禁止物質の混入がないか確認する必要があるのです。
そして、最終製品でコンタミネーションが起こる以外にも、原材料の製造段階でコンタミネーションが起こる可能性もあります。「原材料」というと、原材料規格書や外箱(ただし医薬品に限る)を見れば原材料にドーピング禁止物質が使用されいているか簡単にチェックすることができるからと、目視での確認で問題ないと判断する方がまれにいますが、そうでもありません。
皆さんは2019年に起きた、沢井製薬の『エカベト Na 顆粒66.7%「サワイ」』に、禁止表国際基準で利尿薬および隠蔽薬として記載されている「アセタゾラミド」が混入していた件について、ご存知でしょうか?中には、記憶に新しい方もいらっしゃるはずです。
輸入した原材料にたまたま混入していたドーピング禁止物質
ことの発端は、2018年に起きた男子レスリング選手によるドーピング違反から始まりました。同選手は2018年6月の全国大会で実施されたドーピング検査において陽性反応が出たため、原因を調べたところ、大会前に服用したエカベト Na 顆粒66.7%「サワイ」に成分表示のないアセタゾラミドが検出されたのです。
当時は、医薬品は厳格に管理されているため、コンタミネーションによるドーピング禁止物質の混入は考えられないという考え方をする専門家が多くいたこともあり、大変大きな出来事として記憶に残る事態となりました。
同選手は同剤による原因とわかると半年間の資格停止処分は取り消されたものの、製薬会社の沢井製薬と陽進堂に対し、慰謝料など約6000万円の損害賠償を求めて提訴しています。
でははぜ原材料に混入していたのでしょうか?沢井製薬から出ている2019年4月19日のプレスリリースを見ると原因は「これは、陽進堂から購入した原薬の製造元の製造ラインで生産設備を共有しているエカベトナトリウムにアセタゾラミドが残留し、最終製剤までキャリーオーバーしたことが原因と考えます。」とあり、原材料を製造する過程でのコンタミネーションが原因ということがわかります。両者はこれ以降、洗浄方法の見直しをしており、現在も残留量が可能な限り低減できるよう洗浄方法の改良を進めているそうです。
(2021年3月16日には同選手と和解しています。)
このように、原材料を製造する過程においてもコンタミネーションが起こることもあるため、原材料でドーピング物質が使われていないかを書類や外箱チェックすれば問題が起きないという認識は捨てるべきなのです。
ちなみに製品へのドーピング禁止物質の混入は、上記以外に意図的なケースもあります。ライバル選手をドーピング違反に貶める「パラ・ドーピング」というものです。2017年にはカヌー・スプリント競技でライバル選手の飲料に筋肉増強剤を混入する事件が起きました。
パラ・ドーピングは「開封済みの飲み物や食べ物は食べない」「自分の飲料や食べ物については目を離さず、少しでも目を離したものは食べない」といった対策を取ることができますが、製造過程が原因のコンタミネーションによるドーピング違反を防ぐためには、安全性の高い基準で製品の分析を行うことが必要と言えます。
選手を守ることはもちろん、万一の際に、製造メーカーとしての責任を問われないためにも、LOT毎の分析を行いましょう。製造後に1回だけ分析すれば良いわけではありません。大きなトラブルを回避するためにも、安全策をしっかりと取りましょう。