イルホープ社の分析品目の選定方法

イルホープ社の分析品目の選定方法
イルホープ社の分析品目の選定方法

近年、国内アスリートのサプリメント等の製品によるドーピング違反が後を絶たないことから、サプリメントや化粧品、原材料メーカーを対象に、国内でアンチ・ドーピングを目的とした認証・分析サービスがいくつかスタートしています。
今回は提供する認証・分析機関により「分析品目が異なる理由」と当社の分析品目の選定方法を解説します。

認証・分析機関により分析品目が異なる理由

WADAはサプリメントの分析項目を指定してない

ドーピング禁止物質はWADA(世界アンチ・ドーピング機構)により公開されていますが、公開品目以外に未公開の類似物質も違反対象とされます。そのためドーピング禁止物質全てを把握、分析するというのは不可能です。またWADAは、サプリメントの使用はドーピング違反になる危険性が高いことから、使用を推奨していないため、分析項目を明確化するようなこともしていません。

しかし、サプリメントや化粧品などの製品はアスリートの必需品であるため、分析して、安全性を確かめる必要があります。そこで、日本を含めた一部の国では、その国のアンチ・ドーピング機構が独自のガイドライン等を策定して、分析項目を明確化する等の対応を取っています。

各認証・分析機関の分析品目の選定方法について

ガイドラインは主にアメリカや日本で発行されています。

アメリカでは、USADA(米国アンチ・ドーピング機構)が第三者認証機関であるための基準を公開しており、USADAはこの基準をクリアした第三者認証を推奨しています。しかしこの基準では分析項目については指定していないため、分析項目は認証・分析機関が独自で指定していると考えます。
またアメリカ同様、UKAD(イギリスアンチ・ドーピング機構)でも推奨する認証サービスがありますが、ガイドラン等の公開はないため、分析項目については認証・分析機関の独自の判断で指定していると考えられます。

日本では2019年4月にJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)が設置した有識者会議にて「スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン」が発行されています。海外の基準とは異なり、ガイドラインの中で分析項目を指定しているため、日本を拠点とする分析機関は日本のガイドラインに沿って分析項目を選定しています。
しかし、JADAが推奨するような分析サービスはなく、リスク低減の判断はあくまでアスリートに委ねられるようです。

この様に、分析品目について指定する国もあれば指定しない国もあるため、分析項目が異なり取得する対策により分析項目が異なるのです。

イルホープ社の分析品目の選定方法

イルホープでは主に、JADA公開のガイドラインにて指定する内容に沿って、分析品目を選定しています。

3.2 製品分析において対象とする項目(物質)の範囲
製品分析において対象とする項目(物質)の範囲は、世界アンチ・ドーピング機構(以下、WADA)から公開される統計情報3に基づき、検出された禁止物質のうち、WADA の禁止表の各区分について、それぞれの上位 50%の物質を一次的対象範囲として、一次的対象範囲のうちの 60%を下らない範囲とし、この範囲について分析を行うことが求められる。
尚、経口での摂取の可能性が無い、もしくは低いと考えられる物質は、分析の対象より除外する。

引用:スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン

イルホープでは、可能な限り幅広い指定品目の分析ができる分析方法と分析条件を採用するようにしています。
しかし、全ての指定品目を分析することは現実的に難しい一面があります。

JADAの公開する指定品目をすべて分析することはできない?

JADA公開のガイドラインの指定品目すべてを分析できない理由は、以下3つがあげられます。

1:指定品目によっては法規制により取り扱いができないものがあるため
2:指定品目によっては分析用溶媒に溶けないものがあるため
3:指定品目とサプリメントの相互作用により分析が困難になるため

1:指定品目によっては法規制により取り扱いができないものがあるため
JADA公開のガイドラインの指定品目には、麻薬や覚せい剤などの日本の法規制により取り扱いが難しい違法成分がいくつか存在します。
これらの違法成分については、文献にあるようなデータと比較するといった形で(実際に入っているかを確認するわけではない)特別な分析機関に委託することで確認はできるようですが、添加確認試験の際に必要な試薬の取り扱いが一般的には難しいために、弊社では分析結果の公開対象としてはいません。
なおこれら違法成分については、サプリメントの原材料に使用される可能性が極めて低いことから、分析対象とする必要性が低いと考えられます。

2:指定品目によっては分析用溶媒に溶けないものがあるため
イルホープでは主な分析手法にLC-MS-MSという分析手法を採用していますが、LC-MS-MSの分析過程において、試薬を溶媒に溶かす過程があります。指定品目には、水溶性、脂溶性、中性的な成分が混在しており、溶媒に指定品目を溶かす際、指定品目の特性によって溶けにくいものも存在するため、分析することが難しいのです。
イルホープでは、指定品目が溶媒に溶けやすい最適な溶媒を使用し、サプリメントや化粧品に混入する可能性の高いドーピング禁止物質を網羅的に分析しています。
LC-MS-MS 分析について

3:指定品目とサプリメントの相互作用により分析が困難になるため
LC-MS-MSは、他の分析手法ではできない成分を分析できるなど万能な分析手法であるため、弊社以外の認証・分析機関でも主に採用される分析手法です。一方で、種々雑多な原材料から成るサプリメントの影響(吸着、反応、代謝、分解など)を受け、一部の成分の結果が正確に出ないことがあります。
JADAの指定品目の一部も原材料の影響を受けるものがあるため、分析品目に指定することが難しいのです。
イルホープでは、種々雑多な原材料による影響を受けていないか確認する目的で、LC-MS-MSにより得られた結果の確認試験を添加確認試験によりすべての製品で行い、結果の誤報告を防いでいます。

イルホープの特長は最新の検出品目もカバーしている

JADAの公開するガイドラインの指定品目は、世界的に検出された成分の統計であるため、優先的に分析すべき対象である一方、統計データが約2年前のため、ここ2年で流行しているような成分については、分析対象としていません。

そこでイルホープでは、国内外のドーピング禁止物質に関する論文などを集め、ドーピングに精通した大学の先生とともに、最新の情報を反映した分析品目になるよう調整しています。そのため当社にて分析した製品は、アスリートにはドーピング違反になる危険性が低減された製品と伝えることが可能です。

何を比較検討のポイントとすればよいか?

アンチ・ドーピングを目的とした認証・分析サービスを比較検討する際のポイントは以下2つです。

1:JADA公開のガイドラインのカバー状況について納得できるか
2:最新のドーピング事情が反映されているか


前述した通り、JADA公開のガイドラインの指定品目をすべて分析することは現実的に難しいです。そのため、指定品目の分析状況に加え、分析していない品目の理由について、どれだけ納得できるかが重要になります。また、JADA公開のガイドラインの指定品目だけではなく、ここ数年で検出された禁止物質を分析しているかどうかも重要です。

上記2点の説明について納得がいかないサービスを採用してしまうと、アスリートがサプリメントによるドーピング違反になる可能性が高まり、最終的にメーカー自身が苦しむことに繋がります。

周りがとる対策を検討することも重要ですが、メーカー自身を守るために、分析品目を細かく確認することをお勧めします。